【技能実習】帰国費用は監理団体が持たなければいけないのか弁護士が解説
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1 問題の所在
僕が監理団体の方と仕事をするようになってからよく相談を受けたことの一つが「技能実習生の帰国費用を負担しなければならないのか」ということです。
例えば、監理団体の方から現場で実習実施者と話したときに「帰国費用は監理団体が持つことになっていると法令に書いてあるのだから、企業に請求するのはおかしいのでは?」と言われたのだが、どうなのでしょうか、という質問が来たことがあります。
実は、実習実施者の言っていること自体はまんざら間違いではなく、むしろ技能実習法令をよく勉強しているから言えることなんです。具体的には、下記の条文が根拠になります。
〇外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則(平成二十八年法務省・厚生労働省令第三号、抜粋)
(技能実習を行わせる体制及び事業所の設備)
第十二条 法第九条第六号(法第十一条第二項において準用する場合を含む。)の主務省令で定める基準のうち技能実習を行わせる体制に係るものは、次のとおりとする。一~五(略)
六 企業単独型技能実習に係るものである場合にあっては申請者が、団体監理型技能実習に係るものである場合にあっては監理団体が、第十条第二項第三号トに規定する一時帰国に要する旅費(同号ト(1)に規定するものについては、第二号技能実習生が第二号技能実習を行っている間に法第八条第一項の認定の申請がされた場合に限る。第五十二条第九号において同じ。)及び技能実習の終了後の帰国に要する旅費を負担するとともに、技能実習の終了後の帰国が円滑になされるよう必要な措置を講ずることとしていること。
上記の条文を読むと、明確に「監理団体」が帰国に要する旅費を負担する、と書いてありますね。実習実施者からすれば「ほれ、見たことか!」といったところでしょうか(笑)
では、このとおり、監理団体が帰国費用を負担しなさい!!という結論になるかというと、ならないんです。「何で??」って思いますよね。
では、監理団体が企業に帰国費用を請求できるとすれば、それはいかなる根拠に基づくものなのか。
この記事を読むと、 ☑帰国費用を監理団体が実習実施者に請求する法的根拠 ☑請求するためにはどのようなことをしておかなければならないのか を理解することができます。 |
2 監理団体の費用の請求根拠
そもそも、監理団体が監理事業に関し、実習実施者に請求できるのは、用途及び金額を事前に明示した適正な種類及び額の監理費のみです(技能実習法28条2項)。
〇平成二十八年法律第八十九号外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律
(監理費)
第二十八条 監理団体は、監理事業に関し、団体監理型実習実施者等、団体監理型技能実習生等その他の関係者から、いかなる名義でも、手数料又は報酬を受けてはならない。
2 監理団体は、前項の規定にかかわらず、監理事業に通常必要となる経費等を勘案して主務省令で定める適正な種類及び額の監理費を団体監理型実習実施者等へあらかじめ用途及び金額を明示した上で徴収することができる。
そうであれば、帰国費用が主務省令で定める種類の「監理費」のどれかにあたれば、事前に用途及び金額を明示さえしておけば、監理団体は実習実施者に帰国費用を請求することができることになります。
この点について、技能実習法28条2項を受けた主務省令である技能実習法施行規則第37条は、監理費の内容を下記の4種類に分けて規定しています。
①「職業紹介費」
②「講習費」
③「監査指導費」
④「その他諸経費」
加えて、同条の詳細を解説した令和2年4月出入国在留管理庁・厚生労働省編「技能実習制度運用要領」の233頁には下記の記載があります。
「その他諸経費」としては、職業紹介費、講習費及び監査指導費に含まれない、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に資する費用であり、例えば以下のものが挙げられます。
・ 技能実習生の渡航及び帰国に要する費用
このため、技能実習法施行規則では監理団体が帰国旅費を負担する、とされていますが、事前に用途及び金額を定めておけば、最終的に監理団体は、技能実習生の渡航及び帰国に要する費用を実習実施者に請求することができるのです。
もちろん、そのためにはしつこいようですが、
①「事前に」
②「用途及び金額」
を監理費表などを通じて明示していなければなりません。
3 2021年4月1日付技能実習制度運用要領の一部改正
加えて、2021年4月1日付けで一部改正された「技能実習制度運用要領」において、以下の記載が追加されました(86頁)。
今まで、帰国するまでの間の技能実習生への生活面の支援に関しては、法的根拠があいまいな状態で監理団体に負担するよう指導がされていましたが、今回の改正によって、法的な位置づけが明確になりました。
そして、明確に、監理団体が「必要な措置」を講じるに当たって生じる費用及び帰国旅費について、「その他諸経費」として監理費(実費に限る。)を実習実施者から徴収することができる、と運用要領の本文中に明記したことは実務上大きいと思われます。
- 技能等を移転するという技能実習制度の趣旨に鑑みて、技能実習生の帰国に支障を来さないようにするために、企業単独型実習実施者又は監理団体が帰国旅費の全額を負担し、「必要な措置」として、技能実習生が帰国するまでの間、生活面等で困ることがないよう、技能実習生が置かれた状況に応じて、その支援を行うこととしているものです。
- 上記については、帰国予定の技能実習生の在留資格が、帰国が困難である等の事情により他の在留資格に変更された場合であっても同様です。
- 監理団体は、「必要な措置」を講じるに当たって生じる費用及び帰国旅費については、「その他諸経費」として、監理費(実費に限る。)を実習実施者から徴収することができますが、いかなる理由でも、技能実習生に負担させることは認められません。【2023年4月1日技能実習制度運用要領一部改正による追記(203頁)】○ 帰国旅費とは、帰国に要する旅費であるため、技能実習生が出発する空港までの移動費が含まれます。
(なお、帰国のための PCR 検査費用については、基本的には技能実習生本人の負担になりますが、技能実習生の国籍によって帰国のために必須の措置となることから、技能実習生本人に当該費用の負担が困難な事情がある場合、「必要な措置」の一環として、監理団体が負担する必要があります。)
○ 監理団体に技能実習生を空港まで送迎する義務はありませんが、技能実習生に対して空港までの行程、空港での手続を説明するなどし、円滑に帰国できるようにすることが必要です。
4 特定技能に移行した場合の費用負担はどうか
ちなみに、特定技能外国人が特定技能雇用契約の終了後に帰国する際の帰国費用については本人負担が原則となりますが,当該外国人がその帰国費用を負担することができない場合は,特定技能所属機関が帰国費用を負担するとともに,出国が円滑になされるよう必要な措置(帰国旅費を負担することのほか,帰国のための航空券の予約及び購入,帰国するまでに必要に応じて行うべき生活支援を含む措置を講ずること)を講ずることが求められています(特定技能基準省令第2条第1項第1号、特定技能外国人受入れに関する運用要領47頁、特定技能制度に関するQ&AQ80参照)。
また、技能実習を修了等し,「特定活動(就労可)」へ移行した場合も帰国費用については本人負担が原則となりますが,本人がその帰国費用を負担することができない場合は,外国人の受入れ企業が負担することとなります(出入国在留管理庁HP「新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援」)。
このため、新たな受入れ機関において外国人に対して十分に説明をし,理解を得た上で雇用契約を締結することが求められます。
5 参考
監理団体の皆様からは実習生や関係各所とのトラブル対応に関する相談が少なくありません。
トラブルの原因を作らないことはもちろんですが、根本的な原因は現場レベルのものから企業レベルのものまで広範に及びます。
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6 まとめ
上記のとおり、今回の論点は関係法令の条文の構造が理解できていないと実習実施者に対して効果的な反論をすることができません。
もちろん、事前に監理費の内訳と金額を明示していなければ実習実施者に負担を求めることはできません。
したがって、実務的には監理費表や見積もり等で事前に費用を明示した上で承諾してもらったことを書面上も明確にしておくべきでしょう。
当職の知る限りでも、規程類が一通りそろっていても監理費表がなかった、ということもありました。特にコロナ禍の状況では、仮に帰国が可能になってもその費用は高騰することが容易に想定されます。
したがって、監理団体としては、監理費表をしっかりと作り、実習実施者に承諾をもらっておくことが必須です。
帰国費用の負担を決めるのは、監理団体の事前の準備と説明です。
監理団体の運営に大きく影響する問題ですので、必ず専門家に相談して必要な書類を準備しておいてください。
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