監理団体が外国人技能実習生の人権侵害問題に関する相談に対処する際のポイントとは?【外国人労務特化型弁護士が解説】

  • #技能実習
2023.05.25

1 はじめに

令和4年1月18日付けで朝日新聞デジタルが「ベトナム人技能実習生「2年間暴行された」 たたく・蹴る……骨折も」との表題の記事(以下「本件記事」という)を公表しました(以下、この事件のことを「岡山事件」といいます)。

今回は、本件記事を発端として外国人技能実習機構(以下「機構」といいます)から公表された内容等を踏まえて、監理団体が外国人の人権侵害問題の相談に対処する際のポイントについて解説していきます。

本件記事は、岡山事件の内容は、対象の技能実習生から相談を受けた労働組合によると、以下のような内容だったとしています。

①   建設現場で足場を組む作業など男性は働き始めてから1ヶ月くらいして約2年間にわたり、暴力をうけていたこと。働き始めて1カ月くらいして、職場同僚の日本人3人からほうきや棒状のもので背中や腰などを何度もたたかれたり、左胸あたりを安全靴で蹴られて肋骨(ろっこつ)3本を折られたりしたという。骨折した際は、会社から「階段から落ちたことにしておけ」と指示された。

②   男性は21年6月、監理団体の岡山産業技術協同組合へ暴行を受けていることを相談。一時的に暴行は収まったが、すぐに再開した。

③   このため、男性は、労働組合に相談し、21年10月に保護された。

なお、本件記事と併せて、労働組合がYouTubeに男性が暴行を受ける画像をアップしたことも大きな話題となりました。、記憶に新しいと感じる方も少なくないのではないでしょうか。

 

2 機構の岡山事件に対する反応とその後の対応について

 

(1)  本件注意喚起の公表

本件記事が公表されて間もなく、令和4年1月24日付けで、出入国在留管理庁・厚生労働省及び機構(以下「機構ら」といいます)は「技能実習生に対する人権侵害行為について(注意喚起)」(以下「本件注意喚起」という)を公表しました。

本件注意喚起は、「岡山市内の建設会社で働くベトナム人技能実習生が、職場の同僚などから2年間にわたって繰り返し暴言や暴行を受けており、外国人技能実習機構に通報がなされた」として、実習実施者による技能実習生に対する暴行等の行為は、重大な人権侵害行為です。

関係法令により処罰の対象となり得るほか、技能実習制度においても、技能実習計画認定の取消し事由とされています。

また、外国人技能実習機構及び主務省庁において、必要な調査・指導等を実施の上、技能実習法違反が認められた場合には、行政処分を行う等厳正に対処していくこととなる、ということを伝えています。

その上で、実習実施者に対しては、暴行事案等に限らず、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなど人権侵害行為は、日常の無自覚な言動の中でも起こり得ることに十分留意しなければなりません。

また、上司と部下や従業員同士の関係を含め、技能実習生等への人権侵害等の不適正な対応が生じていないか、改めて徹底した確認を行うことを求めています。

なお、監理団体に対しては、以下の対応を求めています。

 

①   監査、訪問指導、日々の相談等あらゆる機会を捉えて、傘下実習実施者において技能実習生に対する不適正な対応が行われていないかどうかを適切に確認すること

②   人権侵害行為等を把握した場合には、当該技能実習生を速やかに保護するとともに、外国人技能実習機構をはじめとする関係機関に確実に報告・相談の上、技能実習生が安心して技能実習を続けられるよう適切な対応をすること

 

(2)  実習実施者の技能実習計画の認定取消し

出入国在留管理庁及び厚生労働省は、「技能実習生の人権を著しく侵害する行為を行った」ことを理由に、2022年2月18日付けで実習実施者であるシックスクリエイト株式会社技能実習計画の認定を取り消しました(技能実習法第16条第1項第2号(同法第9条第6号))。

すなわち、機構らがどこまでの事実を認定したかは不明ですが、パワハラ行為が行われたという認定が前提になっているといってよいでしょう。

 

(3)  監理団体の許可取消し

監理団体である岡山産業技術協同組合も2022年5月31日付けで出入国在留管理庁及び厚生労働省によって、以下の理由で監理団体としての許可を取り消しました。

①   傘下の実習実施者に対する監査を、監理責任者の指揮の下に、適切に実施していなかったこと

②   監査の終了後遅滞なく、監査報告書を機構に提出していなかったこと

③   技能実習生からの相談に適切に応じるとともに、実習実施者及び技能実習生への必要な措置を講じていなかったこと

 

3  2022年4月1日付け技能実習制度運用要領の改訂

上記の事件ののち、2022年4月1日付けで技能実習制度運用要領が一部改定(以下、単に「運用要領」といいます)されました。

◆「なお、人権を著しく侵害する行為は、暴力行為に限られず、大声で怒鳴る侮辱するといった行為やセクシュアルハラスメントなども含まれることに注意が必要です。」

◆「これまでに技能実習生に対する人権侵害を理由として行政処分等を実施した主な事案」が追記されました(運用要領90頁)。下表を参照してください。 

  建設現場での作業中に、技能実習生の身体を叩いたり、足で蹴ったり、ヘルメットの上から手や道具で叩いたもの。

  技能実習生が仕事を覚えないことに対して「国に帰れ」と発言したり、頭部を平手打ちしたもの。

  技能実習生に対して、母国語を話したときに「罰金を取る」と注意したもの。 

  日本式の謝罪の方法を教えるといって、 土下座を指導したもの。

  技能実習生に対して、コミュニケーションと称して、肩を揉む、肩を叩く、頭を触るといった行為を行ったもの。

 

これは、岡山事件を受けて人権侵害行為の具体例を明記することで、実習実施者及び監理団体に対してより慎重な対応を求めるためのものであるったといえるでしょう。

 

4 岡山事件を受けて監理団体に求められることとは?

本件記事には、監理団体の指導の結果、実習実施者からの暴行が一時的に収まったという記載があります。

推測の域を出ませんが、監理団体が技能実習生に関する相談を受けて、実習実施者に対して暴行をやめるように指導を行ったため、一定の成果があったということはいえるかもしれません。

しかしながら、その後、暴行が再開された後に監理団体が適切な対応をしたことをうかがうことはができません。

取消しの理由において、「相談への適切な対応をしていない」ということが認定されていることからしても、その後において、相談に対する適切な対応がなされなかったといわざるを得ないでしょう。

また、監理団体の許可取消しにおいて、「監査をしていないこと」「監査報告書を提出していないこと」が認定されていることからすると、臨時監査を行ってその内容を機構に提出していなかったことがうかがわれます。

 

【ポイント!】

人権侵害行為を把握した場合、監理団体は速やかに臨時監査を行い、速やかに機構に連絡のうえ、監査報告書を2週間以内に提出することが求められています。

 

「特に、技能実習生に対する暴行、脅迫その他人権を侵害する行為が疑われる情報を得た場合については、迅速かつ確実に臨時監査を実施する必要があります。また、臨時監査後、電話等により、その概要を直ちに実習実施者の住所地を管轄する機構の地方事務所・支所の指導課に連絡するとともに、当該監査の実施結果については、監査報告書によりとりまとめの上、速やかに同課に報告する必要があります。具体的には、監査報告書について、技能実習生の保護や早期の事案の解明が求められることから、臨時監査実施後、遅くとも2週間以内に報告することが求められます。」

引用:厚生労働省「「技能実習制度運用要領」の一部改正について 」2頁

 

実務において、監理団体の皆さまは、岡山案件のような重大事案から単に指導が厳しかった、というレベルまで様々なケースに直面すると思います。実際、今回の通知が出て以降、人権侵害行為について、機構の指導が厳しくなっているということを感じていらっしゃる方々も多いのではないかと思います。昨年9月には経産省から「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン」が出され、同12月からは「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が開催されています。今後、人権侵害行為に対する指導がより一層厳しくなることは避けられないと思います。

監理団体としては、安易にその場限りの対応をすると今回のように第三者から機構に情報が伝わり取り返しのつかないことになりかねません。

問題を把握した場合は、速やかに臨時監査を行って機構に報告し、その報告・相談の結果を踏まえて事案の性質に応じた対応を行っていくことが求められているといえるでしょう。

 

5 サマリー

 

監理団体の皆さまは、本来注力するべき業務に専念するためにも、法律の専門家とパートナーシップを築き、技能実習生特有のさまざまな問題について、いつでも相談できる環境を整備されることをおすすめします。

この記事を書いた「Linolaパートナーズとは」

弁護士
弁護士

片岡 邦弘

Linolaパートナーズ法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属)
外国人労務特化型弁護士/入管法届出済弁護士
1978年東京生まれ、東京在住

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