「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」の送検事例を基に監理団体がコンプライアンス構築を図ることの重要性について外国人労務特化型弁護士が解説②

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2023.09.29

1. はじめに

 

前回は、令和5年8月1日、厚生労働省が公表した、「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」を基に、監理団体が「今」気をつけなければならないことについて解説していきました。

本稿では、「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」8頁の「送検された事例」を基に監理団体が労働関係の法令を含むコンプライアンス体制を構築することの重要性について解説していきます。

 

 

2. 令和4年の送検の状況

(1) 送検の件数

「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」7頁によると、技能実習生に関する重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められた事案として、労働基準監督機関が送検した件数は21件でした。

労働関係法令違反全体の件数が7,247件あったことからすると、送検まで至るケースは約0.3%しかありません。

重大・悪質な労働関係法令違反が認められたと判断されたものであることが数字からも明らかでしょう。

 

 

(参照:「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」7頁)

 

 

(2) 送検法条文の内訳

「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」7頁によると、令和4年の送検等状況の内訳は次のとおりでした。

21件のうち安全基準で送検された件が9件(約43%)と圧倒的に多いことが確認いただけると思います。

 

(参照:「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」7頁)

 

 

(3) 刑罰が確定した場合の影響

労働基準法違反や労働安全衛生法違反等の労働関係法令違反により罰金の刑に処せられ、刑が確定すると、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした」ものとして、技能実習計画が取り消されることになります(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(以下「技能実習法」といいます)第 16 条第1項第3号(同法第10条第9号))。

そうなると、在籍している技能実習生はもちろんのこと、特定技能外国人についても欠格事由となり、計画取消から5年間は受け入れができなくなります(出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」といいます)第2条の5第3項・特定技能基準省令第2条第1項第4号チ)。

 

なお、上記の労働関係法令違反は外国人労働者に対するものはもちろん日本人労働者に対するものも含まれます。

この点については、平成31年1月25日付けで、パナソニック株式会社が、「平成30 年3月28日、砺波簡易裁判所より労働基準法違反により罰金30 万円に処せられ、刑罰が確定した」ことを理由に同社で技能実習を行っていた技能実習生82名の技能実習計画の認定を取り消された事例があります。

これは「砺波市の工場で過労自殺した40代男性社員に違法な長時間残業をさせ、労基法違反で砺波簡裁から18年3月28日付で罰金30万円を支払うよう略式命令を受けていた」ことを理由とするものです(平成31年1月25日14:00日本経済新聞電子版)。

かかる事案からも適正な外国人労働者の受け入れにあたっては、会社全体で労働関係法令を遵守することが極めて重要となることは明らかです。

 

 

 

3. 事例について

機構の業務統計から監理団体のコンプライアンス上重要な点

 

「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」8頁で「違法な時間外労働を行わせ、虚偽の時間外労働時間数等を賃金台帳に記入した疑いで送検された事例」が紹介されています。

詳細は以下のとおりです。

 

 

 

本件は、まず、36協定を締結していたものの、その上限を超えて時間外労働を行わせています。

そもそも使用者は原則として一日8時間・週40時間を超えて労働者に時間外労働を行わせることはできません(労働基準法第32条)。

会社が法定労働時間を超えて労働(法定時間外労働)させる場合、または法定の休日に労働(法定休日労働)させる場合には、労使間で「時間外労働・休日労働に関する協定書」(いわゆる36協定)を締結して労働基準監督署に届け出ることが必要です(労働基準法第36条第1項)。

仮に36協定の延長時間を適法に設定したとしても、36協定で設定した延長時間の上限を超えて労働者に時間外労働を行わせた場合、36協定で適法とされた範囲を超えてしまうことから、原則に立ち返って労働基準法第32条第1項及び第2項に違反することとなります。

加えて、本件は、1か月当たり100時間以上、連続する複数の月を平均して1か月当たり80時間を超える違法な時間外・休日労働を行わせています。

この点、個々の労働者に対して36協定により時間外労働又は休日労働をさせる場合の絶対的上限が定められています(労基法36条2項及び3号)。

 

①1か月の時間外労働・休日労働が100時間未満であること

②2か月ないし6か月の時間外労働・休日労働の平均が80時間以内

 

なお、②は、複数の36協定の対象期間をまたぐ場合にも適用されます。

個々の労働者の労働時間が絶対的上限①又は②を超えた場合、労基法36条6項違反で6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されるおそれがあります(労基法119条1号)。

この事例では①及び②をいずれも超えてしまっていますので、最終的には刑罰が適用され、技能実習計画の認定取消しにつながってもおかしくないものであるといえます。

 

 

4. 監理団体におけるコンプライアンス体制構築の重要性について

 

2⑶にて前述した通り、労働関係法令違反があった場合、実習実施者は技能実習計画の認定を取り消され、その後5年間技能実習生や特定技能外国人を受け入れることができなくなります。

この点、監理団体は、実習実施者が労働基準法、労働安全衛生法その他の労働に関する法令に違反しないよう、監理責任者をして、必要な指導を行わせなければならない、とされています(技能実習法第40条第3項)。

そして、実習実施者に労働基準法、労働安全衛生法その他の労働に関する法令に違反していると認めるときは、監理責任者をして、是正のため必要な指示を行わせなければならず(技能実習法第40条第4項)、かかる指示を行ったときは速やかにその旨を関係行政機関に通報しなければならない、とされています(技能実習法第40条第5項)。

すなわち、監理団体は、実習実施者に法令違反があるかどうか判断できるよう労働関係法制に成熟していること、また、監理責任者の指導の下、現場の職員が実習実施者に労働関係法令違反がないよう指導を行える体制を構築することが求められているといえます。

 

5.サマリー

当職は監理団体から日々さまざまなご相談を受けていますが、現場の職員が把握した情報が監理責任者に共有されていないのではないか、と感じることがよくあります。

 

監理責任者への情報共有がされなければ適切な対応を取ることはできません。

 

現場の担当者に監理責任者に対して情報を集約することの重要性を理解してもらうことがとても重要なのは当然ですが、システムを導入することを通じて日頃から自然と情報が共有される仕組みを作ることで、監理責任者が適切な判断・指導を行える体制を作っていくことも重要になってくると思います。

 

監理団体の職員が取り組む業務は多岐に渡ります。

 

システムの導入を通じて情報を一元化するとともに、ヒューマンエラーの要素を減らしていくことが今後監理団体のコンプライアンス体制の構築において重要になってくると考えます。

 

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監理団体が弁護士に外部監査を依頼する3つのメリットと注意点【外国人労務特化型弁護士が解説!】

 

 

 

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この記事を書いた「Linolaパートナーズとは」

弁護士
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片岡 邦弘

Linolaパートナーズ法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属)
外国人労務特化型弁護士/入管法届出済弁護士
1978年東京生まれ、東京在住

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