農業の技能実習生に残業代はない?
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農業の技能実習生は残業代なし?
僕が日常的な相談の中で比較的よく受ける質問の一つに「農業の技能実習生は残業代なしでいいといわれたのだが、これってどうなんですか?」というものがあります。
多くの場合、監理団体の職員の指導に対して実習実施者(企業)が反発しているので、どうやって説明すればいいですか?という形で僕のところに相談にこられるのですが、たまに、「社会保険労務士から農業では残業代の支払いは不要だと言われたのに支払わないといけないのか。」と企業から言われた、等ということもあります。
結論から言ってしまうと、「技能実習生の場合は残業代の支払いは必要」ということが答えです。
以下、なぜそういう結論になるのか。そして、どうやって企業に話をすればいいのかについて説明していきたいと思います。
この記事を読むと
☑農業の技能実習生についての規制の仕組み が理解できます。 |
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1 農業労働者には深夜残業代以外は出ない
農業労働の場合、気候や天候に大きな影響を受けるという特殊性から、労働基準法の労働時間・休憩・休日等に関する規定の適用されないとされています。(※深夜労働・有給休暇の規程は適用されます。)
すなわち、農業労働者は、管理職と同様以下の規定が適用されません。
- 週40時間・一日8時間という法定労働時間
- 休憩時間・休日
- 36協定の締結・届出
- 時間外労働・休日労働に対する割増賃金
したがって、農業の事業者は、そもそも労働者の労働時間を管理しなければいけないという意識が希薄であることが通常です。
〇労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)抜粋
(労働時間等に関する規定の適用除外)第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの〇別表第一第六号(林業を除く。)
「土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業」
2 技能実習生には残業代を支払う必要がある
この点、平成12年3月農林水産省構造改善局地域振興課「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」(以下、「通知」といいます)は以下の通り規定しています。
農業の場合も労働生産性の向上等のために、適切な労働時間管理を行い、他産業並みの労働環境等を目指していくことが必要となっている。
このため、技能実習移行に当たっては、労働時間関係を除く労働条件について労働基準法等を遵守するとともに、労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件についてを、基本的に労働基準法の規定に準拠するものとする。
そして、平成25年3月28日農林水産省経営局就農・女性課長「農業分野における技能実習生の労働条件の確保について」は、通知を前提として、以下のとおり発信しています。
- 通知においては、労働基準法の適用が除外されている労働時間関係規定について、「労働生産性の向上等のために、適切な労働時間管理を行い、他産業並みの労働環境等を目指していくことが必要」との観点から、労働基準法の労働時間、休憩、休日等に関する規定に準拠することを求めているところであり、今後とも、通知を踏まえた適正・的確な制度の運用に努めること。
- 近年、農業分野の実習実施機関において、通知に反して、時間外労働・休日労働に対する割増賃金を支払わない雇用契約を締結している事案が報告されているほか、時間外労働に対する不当な低賃金といった不正行為の事例が公表されているところである。このような行為は、制度全体に対する不信感を招くばかりでなく、制度そのものの存続の是非を問われることにもなりかねないものであるので、適正・的確な技能実習制度の運営を行うこと。
3 実習実施者にどう説明するか
上記のとおり、農業の技能実習生に対しては、通常の労働者では適用されない労働時間規制、休日規制に準拠することが要請されています。
このため、割増賃金を支払うために労働時間の管理をしなければならない、ということが一つのハードルになります。
元々、労働時間規制を受けないのが通常の農業労働の経営者は、労働時間を管理する事への意識自体が希薄であることが通常なので、突然労働時間管理を行うようにというだけでは駄目でその職場の実態に合った形で労働時間管理について提案する必要があります。
加えて、私の経験しただけでも数回「社労士から労働時間管理は不要だと言われている」とコメントを返してきた実習実施者がいました。
法の専門家である社労士ですら知らないことがある通知について企業に突然理解を求めても理解をしてらもらえないのも無理のないことです。
一番簡単なのは、農林水産省のパンフレットを持参して、そのパンフレットを示して説明してあげるのが穏当でしょう。
もし、理解が得られない場合は、弁護士に意見書を書いてもらって持参したり、それでも難しければ弁護士を同行して実習実施者に対して指導を行っていくといったことも考えられます。
以前、あるクライアントの相談を受けた際は、社労士に対して当職の作成したメモを見せて説明をしたところ、社労士の納得を得ることができた、というコメントを頂戴したことがあります。
4 特定技能の場合はどうか
ちなみに、特定技能1号の場合は日本人の労働者と同様の取り扱いとなっています。
したがって、技能実習生を特定技能1号に移行させる場合は、トラブル回避のため、取り扱いの差異について十分に説明しておく必要があります。
なお、「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-農業分野の基準について」には以下の記載があります。
【 労働時間,休憩及び休日への配慮 】特定技能雇用契約は,特定技能基準省令第1条第1項に定めるとおり,労働基準法(昭和22年法律第49号)その他の労働に関する法令の規定に適合している必要があります。農業については,日本人が従事する場合と同様に,労働時間,休憩及び休日に関する労働基準法の規定は適用除外となりますが,特定技能外国人が,健康で文化的な生活を営み,職場での能率を長期 間にわたって維持していくため,特定技能外国人の意向も踏まえつつ,労働基準法に基づく基準も参考にしながら,過重な長時間労働とならないよう,適切に労働時間を管理するとともに,適切に休憩及び休日を設定しなければなりません。
5 まとめ
上記のとおり農業の技能実習生に対しては労基法の労働時間規制・休日規制は適用されませんが、
農水省の通知を踏まえて、労働時間の管理・休日規制と同じ取り扱いをすることが必要です。
実習実施者に対しては農林水産省のパンフレットを示して、技能実習生に対しては労働時間、休憩、休日等に関する規定と同様の取り扱いをする必要があることを説明し、かかる規制を無視すると、外国人技能実習機構の立入検査があったときに是正指導を受けるリスクがあることを説明しておくべきでしょう。
必要に応じ、専門家の意見を求めて適切に対応するようにしてください。
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