「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」の送検事例を基に監理団体がコンプライアンス構築を図ることの重要性について外国人労務特化型弁護士が解説①
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1. はじめに
令和5年8月1日、厚生労働省は「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」(以下「本件統計」といいます)を公表しました。
「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」によると、「全国の労働基準監督機関において、労働基準関係法令違反が疑われる実習実施者に対して9,829件の監督指導を実施し、その73.7%に当たる7,247件で同法令違反が認められた。」
(<注>違反は実習実施者に認められたものであり、技能実習生以外の労働者に関する違反も含まれる。)とのことです。
本稿では、本件統計の「送検された事例」を基に監理団体が労働関係の法令を含むコンプライアンス体制を構築することの重要性について解説していきます。
2. 令和4年の送検の状況
(1) 送検の件数
「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」7頁によると、技能実習生に関する重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められた事案として、労働基準監督機関が送検した件数は21件でした。
労働関係法令違反全体の件数が7,247件あったことからすると、送検まで至るケースは約0.29%しかありません。
重大・悪質な労働関係法令違反が認められたと判断されたものであることが数字からも明らかでしょう。
(参照:「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」7頁)
(2) 送検法条文の内訳
「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」7頁によると、令和4年の送検法条文の内訳は次のとおりでした。
21件のうち安全基準で送検された件が9件(42%)と圧倒的に多いことが確認いただけると思います。
(参照:「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」7頁)
(3) 刑罰が確定した場合の影響
労働基準法違反や労働安全衛生法違反等の労働関係法令違反により罰金の刑に処せられ、刑が確定すると、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした」ものとして、技能実習計画が取り消されることになります(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(以下「技能実習法」といいます)第 16 条第1項第3号(同法第10条第9号))。
そうなると、在籍している技能実習生はもちろんのこと、特定技能の外国人についても欠格事由となり、計画取消から5年間は受け入れができなくなります(入管法第2条の5第3項・特定技能基準省令第2条第1項第4号チ)。
なお、上記の労働関係法令違反は外国人労働者に対するものはもちろん日本人労働者に対するものも含まれます。
この点については、平成31年1月25日付けで、パナソニック株式会社が、「平成30年3月28日、砺波簡易裁判所より労働基準法違反により罰金30万円に処せられ、刑罰が確定した」ことを理由に同社で技能実習を行っていた技能実習生82名の技能実習計画の認定を取り消された事例があります。
これは「砺波市の工場で過労自殺した40代男性社員に違法な長時間残業をさせ、労働基準法違反で砺波簡裁から18年3月28日付で罰金30万円を支払うよう略式命令を受けていた」ことを理由とするものです(平成31年1月25日14:00日本経済新聞電子版)。
かかる事案からも適正な外国人労働者の受け入れにあたっては、会社全体で労働関係法令を遵守することが極めて重要となることは明らかです。
3. 事例について
「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、 送検等の状況(令和4年)」8頁で「違法な時間外労働を行わせた疑いで送検された事例」が紹介されています。
詳細は以下のとおりです。
本件は、36協定を締結していたものの、36協定で定める延長時間を超えて違法な時間外・休日労働を行わせた、というものです。
そもそも使用者は原則として一日8時間・週40時間を超えて労働者に時間外労働を行わせることはできません(労働基準法第32条)。
会社が法定労働時間を超えて労働(法定時間外労働)させる場合、または法定の休日に労働(法定休日労働)させる場合には、労使間で「時間外労働・休日労働に関する協定書」(いわゆる36協定)を締結して労働基準監督署に届け出ることが必要です(労働基準法第36条第1項)。
本件は、締結されていた36協定で定めた延長時間を超えて時間外労働を行わせた、という事例です。
仮に36協定の延長時間を適法に設定したとしても、36協定で設定した延長時間の上限を超えて労働者に時間外労働を行わせた場合、36協定で適法とされた範囲を超えてしまうことから、原則に立ち返って労働基準法第32条第1項及び第2項に違反することとなります。
加えて、本件では、個々の労働者の時間外労働と休日労働の実労働時間の絶対的上限(労働基準法第36条第6項)にも違反しています。
・月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満(労働基準法第36条第6項2号)
・時間外労働と休日労働の合計について、2か月ないし6か月の平均が80時間を超えないこと(労働基準法第36条第6項3号) |
この事例では「当該事業場では、過去にも繰り返し長時間労働に関する法違反が認められていたことから、捜査に着手した。」との記載があることからすると、監理団体が労働関係法令に関して適切な指導を行っていたかは極めて疑問があると言わざるを得ない状況かと思います。
この点は4にて後述します。
4. 監理団体におけるコンプライアンス体制構築の重要性について
2⑶にて前述した通り、労働関係法令違反があった場合、実習実施者は技能実習計画の認定を取り消され、その後5年間技能実習生や特定技能外国人を受け入れることができなくなります。
この点、監理団体は、実習実施者が労働基準法、労働安全衛生法その他の労働に関する法令に違反しないよう、監理責任者をして、必要な指導を行わせなければならない、とされています(技能実習法第40条第3項)。
そして、実習実施者に労働基準法、労働安全衛生法その他の労働に関する法令に違反していると認めるときは、監理責任者をして、是正のため必要な指示を行わせなければならず(技能実習法第40条第4項)、かかる指示を行ったときは速やかにその旨を関係行政機関に通報しなければならない、とされています(技能実習法第40条第5項)。
すなわち、監理団体は、実習実施者に法令違反があるかどうか判断できるよう労働関係法制に成熟していること、また、監理責任者の指導の下、現場の職員が実習実施者に労働関係法令違反がないよう指導を行える体制を構築することが求められているといえます。
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5.サマリー
当職は監理団体から日々さまざまなご相談を受けていますが、現場の職員が把握した情報が監理責任者に共有されていないのではないか、と感じることがよくあります。
監理責任者への情報共有がされなければ適切な対応を取ることはできません。
現場の担当者に監理責任者に対して情報を集約することの重要性を理解してもらうことがとても重要なのは当然ですが、システムを導入することを通じて日頃から自然と情報が共有される仕組みを作ることで、監理責任者が適切な判断・指導を行える体制を作っていくことも重要になってくると思います。
監理団体の職員が取り組む業務は多岐に渡ります。
システムの導入を通じて情報を一元化するとともに、ヒューマンエラーの要素を減らしていくことが今後監理団体のコンプライアンス体制の構築において重要になってくると考えます。
〈あわせて読みたい〉 監理団体が弁護士に外部監査を依頼する3つのメリットと注意点【外国人労務特化型弁護士が解説!】 |
6.参考
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