在留資格「特定技能」とは?技能実習との違いを踏まえてトラブルを回避するための方法について外国人労務特化型弁護士が解説
- #特定技能
\この記事を読むとわかること/
☑特定技能について理解できる ☑特定技能と技能実習の違いについてわかる ☑特定技能のメリット・デメリットについてわかる ☑特定技能に関するトラブルを回避する方法についてわかる |
「特定技能」は在留資格のひとつです。
特定技能を理解する前提として、在留資格とはどのようなものかをおさえておきましょう。
「在留資格」とは、外国人が日本で行うことができる活動等を類型化したものであり、法務省(出入国在留管理庁)が外国人に対する上陸審査・許可の際に付与する資格のことをいいます。
出典:有識者会議(第1回)「技能実習制度及び特定技能制度の現状について」2頁
日本国内で就労が可能な在留資格は複数ありますが、在留期間や活動内容、要件等がそれぞれ異なります。
今回は、その中のひとつ「特定技能」について初心者向けにわかりやすく解説します。
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1 特定技能とは
特定技能制度は、国内人材を確保することが難しい産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度のことです。
この在留資格「特定技能制度」は、改正出入国管理法(2018年に可決・成立)により創設され、2019年4月から受入れが可能となりました。
「特定技能」には、2種類の在留資格があり、要件や職種がそれぞれ異なります。
(後述します。)
特定技能1号 | 特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格 |
特定技能2号 | 特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格 |
2 特定技能と技能実習の違い
特定技能と技能実習の主な違いについてまとめましたのでご参考になさってください。
特定技能 | 技能実習 | |
制度の目的 | 就労
人材の確保が難しい一部の産業分野等において人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有する外国人材を即戦力つまり「労働者」として受け入れる |
技術移転
日本のさまざまな技術を実習を通して習得した後に帰国し、習得した技術を母国に広めるという「国際貢献」。習熟度により1号・2号に分けられる |
対象業種と職種 | 12職種
*技能実習より幅広い業務に従事することができる |
88職種161作業 |
在留可能期間 | 1号:通算5年
2号:上限なし(家族の呼び寄せ可能) |
最長5年
1号:1年以内 2号:2年以内 3号:2号以内 |
受け入れまでにかかる時間 | およそ2~5ヶ月 | およそ6ヶ月以上 |
人材のレベル | 即戦力
技能:相当程度の知識または経験が必要 日本語:N4以上(日常会話が可能なレベル)の日本語能力が必要 |
未経験
技能水準:試験等は無し 日本語水準:試験等は無し (※2) |
採用方法 | 受け入れ企業による海外での採用活動が可能 | 一般的には監理団体と送出機関を通して行われる |
受け入れ人数制限 | 無し(介護・建設分野を除く) | 常勤職員の総数に応じ人数枠が定められている |
転職の可否 | 可能 | 原則不可
(※3) |
参考: 厚生労働省「技能実習制度 移行対象職種・作業一覧(88職種161作業)」2023年10月30日時点の情報です。
※2. 介護職種のみ入国時にN4レベルの日本語能力が必要。
※3. ただし、実習実施者側の倒産等やむを得ない事情がある場合や2号から3号へ移行する場合等は転籍可能。
なお、技能実習(2号)を修了し要件を満たした実習生は、在留資格を「特定技能」に移行できるというルートがあります(後述します)。
3 特定技能の制度と特徴
特定技能の主な特徴は以下のとおりです。
◾️在留期間は通算で上限5年まで
◾️受入れ機関(又は登録支援機関)による一連のサポートが義務付けられていること ◾️技能及び日本語能力を試験によって確認すること 等 |
出典:JITCO公益財団法人 外国人材協力機構 在留資格「特定技能とは」
受け入れ可能な業種・職種
出典:出入国在留管理庁 特定技能総合支援サイト「特定技能制度とは」
特定技能外国人を受け入れることが可能な分野には一定の要件があります。
それは、生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行っても人材を確保することが困難な状況にあり、外国人により不足する人材の確保を図るべき特定産業分野に限られているということです。
具体的な特定産業分野については、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針について」及び「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針について」(※)の中で以下のとおり定められています。
※ともに2018年12月25日閣議決定、2022年4月26日一部変更
特定産業分野(12分野)まとめ 2023年10月時点
①介護
②ビルクリーニング ③素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 ④建設 ⑤造船・舶用工業 ⑥自動車整備 ⑦航空 ⑧宿泊 ⑨農業 ⑩漁業 ⑪飲食料品製造業 ⑫外食業 |
※1 特定技能1号は12分野で受入れ可。2023年8月31日の関係省令施行により特定技能2号の受入れ分野は「介護」を除く11分野において受入れ可。
※2 2022年4月の閣議決定及び同年5月の関係省令施行により「素形材産業」「産業機械製造業」「電気・電子情報関連産業」の3分野が統合され「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」に一本化されています。
4 「受入れ機関」と「登録支援機関」の違い
なお、「受入れ機関(特定技能所属機関)」とは、特定技能外国人を受け入れる企業のことをいい、多岐にわたるサポートを行うことが求められます。
これらのサポートを「登録支援機関」に委託することもできます。
次に、受入れ機関と登録支援機関の違いについてみていきましょう。
(1) 受入れ機関が外国人の受け入れに必要な基準
① 外国人と結ぶ雇用契約が適切であること
(例. 報酬額が日本人と同等以上であること)
② 機関自体が適切であること
(例. 5年以内に出入国・労働法令違反がないこと)
③ 外国人を支援する体制があること
(例. 外国人が理解できる言語で支援ができること)
④ 外国人を支援する計画が適切であること
(例 生活に関するオリエンテーションを含むなど)
(2) 受入れ機関の義務
① 外国人と締結した雇用契約を確実に履行すること
(例. 法令に則った報酬を適切に支払うこと)
② 外国人への『支援』を適切に実施すること
→支援については、登録支援機関へ委託することも可能。
なお、全部委託すれば(1)③も満たす。
③ 出入国在留管理庁への各種届出をすること
※(注意) 上記①〜③を怠った場合は外国人を受け入れられなくなるほか、出入国在留管理庁から指導、改善命令等を受けることがあるので適切な運営体制を構築し遂行しなければなりません。
5 特定技能の要件
特定技能の要件は大きくわけて2パターンあります。
◾️海外から来日した外国人の場合
◾️日本国内に在留している外国人の場合
満たさなければないらない要件は多岐に渡りますので事前準備や法令のリサーチ、いつでも相談できる専門家の選定などは早めに済ませておきたいですね。
(1) 特定技能の試験から登録までの流れ
出典:外務省「特定技能外国人材を受け入れるまで」
※国により本国側が定める独自の手続きがあるケースもありますのでご注意ください。
詳細はこちらから 各国別の手続などの情報
(2) 特定技能にかかる手続きと費用
特定技能にかかる費用は大きく3つに分けられ一般的な目安となる金額は以下のとおりです。
初期費用のほか、維持費(ランニングコスト)を含めて1人あたりにかかる費用は決して安いものではありません。
海外在住外国人を採用 | 国内在住外国人を採用 | 自社雇用の技能実習生を特定技能へ移行 | |
送出し機関への手数料 | ◯ | ー | ー |
入国時渡航費用 | ◯ | ー | ー |
住居準備費用 | ◯ | ー | ー |
人材紹介手数料 | ◯ | ◯ | ー |
在留資格申請費用 | ◯ | ◯ | ◯ |
事前ガイダンス等費用 | ◯ | ◯ | ◯ |
支援委託費用 | ◯ | ◯ | ◯ |
在留資格更新費用 | ◯ | ◯ | ◯ |
地域により手続き費用の額に大きな違いがあるほか、国内から採用する場合と国外から採用する場合など採用のケースにより金額が異なります。
企業の発展と国際貢献のためにも、日頃から企業全体でコンプライアンス意識を高め健全な運営をしていかなければなりません。
6 特定技能のメリット
特定技能制度には、さまざまなメリットがあります。
ここでは特定技能の主なメリットについてみていきましょう。
(1) 人材確保
特定技能での採用活動が適正に行われ無事に迎え入れることができると人手不足解消に繋がる優秀な人材を確保することができます。
特定技能制度をうまく活用することにより、既存の従業員の負担を軽減することにも貢献することができるでしょう。
(2) 即戦力となる
日本人であっても1人の人材を即戦力レベルまで育成することは至難の業です。
日本語能力と技能水準もある程度できる人材は一から人材育成にかかる時間的コストがかからないので、人手不足の解消を願う企業にとっては大きなメリットになります。
初期費用やランニングコストとの兼ね合いをしっかり理解し採用活動を工夫をすることで、コストパフォーマンスに優れた即戦力となる人材採用の実現ができるでしょう。
(3) 企業価値の上昇
企業が多様な文化や言語を持つ外国人材を雇用する経験と実績は、多元性を高めグローバル企業としての国際的な展望を広げる貴重な機会ともいえます。
特に、グローバルマーケットで競争する企業にとって、異なる国や文化に精通した従業員は、新たな市場への進出や国際的な取引の機会を生み出します。
また、多言語スキルを持つ従業員は、異文化間のコミュニケーションを円滑に行うのに役立ち、国際的なビジネス展開をサポートする人材へと成長する可能性を秘めています。
さらに、多様な労働力を尊重し受け入れる企業は、顧客や取引先から一層の信頼と評価を得るでしょう。
したがって、人材育成に長け多様性を受け入れる企業は、グローバルな競争力を高めるだけでなく、社会的にも一目置かれる存在となることが期待されます。
特定技能の労働力は、企業の成長と持続可能な企業運営に不可欠な要素であるともいえるのではないでしょうか。
7 特定技能のデメリット
実務上、特定技能に関するご相談は日々絶えることなく続いています。
人材確保や即戦力になる一方で、デメリットもあるのはごく自然なことです。
ここで取り上げる事柄は、外国人の労働問題特有ともいえるデメリットですが、少しの工夫で解決できることも多いので、ご参考になさってください。
(1) 手続きが煩雑
特定技能を取得するために必要な手続きはとても複雑です。
試験やビザの申請、登録手続きに至るまで厳密なステップを踏む必要があり、時間と労力がかかります。
書類や手続き、要件の確認等の不備がないよう専門家と連携して取り組まれることをおすすめします。
(2) 文化・言語のギャップ
外国人労働者と日本の雇用主との文化や言語の違いが問題となることはニュースなどでも報道されている通りです。
これらは、深刻な社会問題へと発展することがあります。
このような問題を繰り返さず、未然に防ぐためにも企業体質の改善を含め日頃から定期的なセミナーや勉強会などの機会をつくり従業員教育に力を入れることをおすすめします。
特に、ハラスメントに関する問題は専門家を入れてセミナーを行うと効果的です。
(3) トラブル対応に困る
外国人労働者とのトラブルや紛争の解決は、お国柄を含めた文化的な違いや法的な問題によって複雑化することがあります。
まずは、適切なトラブル対応の仕組みを整える必要があります。
特定技能制度を活用する際には、これらのメリットとデメリットをしっかりと理解し適切な対策を講じることが重要です。
8 特定技能に関するトラブルを回避する方法
特定技能に関するトラブルを発生させないためには、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識の底上げが課題となりますのでこの機会に今一度見直してみてください。
(1) 国ごとの慣習を理解する
国ごとの慣習を実習先の従業員一人ひとりが理解し、歩み寄ることが重要です。
「社員教育まで手が回らない」
という意見も度々耳にしますが、トラブルになってからでは遅いですし最悪の事態を招きかねません。従業員教育の底上げは、企業が健全に運営するためには欠かすことのできない要素のひとつです。
日頃から専門家とすぐに連絡が取れるような関係性の構築に努めましょう。
緊急事案が発生した際には、早めの対応が肝心です。
(2) 日頃からコミュニケーションをとる
トラブルの火種を作らないためには、日頃からコミュニケーションを取ることが有効です。
困っていることや相談しづらいことなども気軽に安心して相談できる環境作りの工夫が必要です。
(3) ガバナンス強化に注力する
・残業代はきちんと支払われていますか?
・36協定は有効な要件を満たしていますか? ・セクハラ、パワハラなどが横行していませんか?どのようなことがハラスメントにあたるかいえますか? など |
日頃からコンプライアンス意識が高く保たれていれば特に問題ありませんが、まだ手つかずであれば早急に改善しましょう。
「外国人従業員にハラスメントで訴えられた」
という最悪の事態を招き企業活動がストップしてしまう前に弊所にお気軽にご相談ください。
また、ハラスメント問題にかかわらずコンプライアンス全般をチェックする良い機会になりますので、一度『お試し監査』を利用されてみてはいかがでしょうか。
普段なかなか気づくことのできない問題点を抽出し予防・解決へ導くことのできる絶好の機会です。
この業界のトップランナーの1人でもある弊所代表弁護士片岡が日本全国へお伺いすることも可能ですのでお気軽にご相談ください。
(4) 専門家との連携と顧問弁護士の選び方
この業界にいれば、一般の企業法務と監理団体向けの企業法務が似て非なるものであることは周知の事実といえます。
業界側から見れば両者の違いは明らかなのですが、明確な違いがあります。
それは、一般的な企業法務を行っている弁護士とは取り扱う関係法令の範囲が異なる点です。
一般の企業法務の顧問弁護士には業界用語が通じないということもよく聞かれる話ですね。
扱う関係法令が上乗せされているイメージであり、制度ができてからの歴史も比較的浅いことから熟知している弁護士になかな巡り会えないことが実情です。
(5) 定期的な内部セミナーの実施
先ほど触れましたが、自社で行うべきセミナーをアウトソーシングすることで、コンプライアンス意識改革のきっかけになることが期待できます。
また、定期的に行うことで法改正にも対応できますし、近時の業界特有の情報共有にも役立つでしょう。
従業員と専門家による、いわゆる「Q&A」は特に効果覿面です。
“責任者が1人で孤独に頑張る” のではなく企業全体・業界全体でレベルアップしていきましょう。
9 参考
セカンド顧問や外部監査などのご相談につきましては、お気軽に弊所までお問合せください。
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10 サマリー
本稿では、「特定技能」に関する基礎となる部分について解説しました。
特定技能と技能実習との違いや手続き面、費用面においてもなかなかハードルの高い制度です。
一方で、特定技能外国人の数は年々上昇傾向にあり、選ばれる主な理由は技能の高さと日本語能力の高さであることは現場にいる皆さんが評価されているポイントではないでしょうか。
特定技能外国人は即戦力として、且つ深刻化する人手不足の打開策として、今後ますます活躍が期待されています。
2019年4月から始まった制度ですが、制度改正もまだ日も浅く制度改定も予定され「育成技能」という名称が発表され “たたき台” となる中間報告も公表されました。
人材確保が深刻な課題となっている業種が多い日本社会にとって、外国人労働者の力は希望の光となる可能性を大いに秘めている貴重な存在です。
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